大阪地方裁判所 平成4年(わ)789号 判決 1993年1月18日
本籍及び住居
和歌山県那賀郡岩出町大字西國分二五二番地
農業
谷澤精
昭和一四年二月一〇日生
本籍
和歌山県橋本市東家四丁目三番
住居
同県同市東家四丁目三番四号
タイヤ修理販売業
阪口峯次
大正一三年二月二四日生
主文
被告人谷澤精を懲役一年二か月と罰金一四〇〇万円に、被告人阪口峯次を懲役一年二か月と罰金一三〇〇万円に処する。
被告人両名においてこの罰金を全部納めることができないときは、それぞれ二〇万円を一日に換算した期間、その被告人を労役場に留置する。
被告人両名に対し、それぞれこの裁判確定の日から三年間その懲役刑の執行を猶予する。
理由
(犯罪事実)
第一 被告人谷澤精は、その所有する不動産を平成二年一〇月を引渡時として売却譲渡したものであるが、全国自由同和会和歌山県経済商工連合会会長であった坂本肇、同連合会事務局長であった谷口清次、同連合会の事務に関与していた北田叔男と共謀して、被告人谷澤の所得税を免れようと企て、平成二年分の分離長期譲渡所得金額が三億三〇六九万一三六〇円であった(別紙1の(一)修正損益計算書参照)のに、虚偽の領収証を作成するなどして架空の譲渡原価を計上する方法により所得の一部を秘匿して、平成三年三月一二日、和歌山県那賀郡粉河町大字粉河一五一四番地の所轄粉河税務署において、同税務署長に対し、その分離長期譲渡所得金額が三九九三万五〇〇〇円で、総所得金額も同額で、これに対する所得税額が七七九万六〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を経過させた。その結果、平成二年分の正規の所得税額八〇四一万九〇〇〇円との差額七二六二万八四〇〇円(別紙1の(二)税額計算書参照)を免れた。
第二 被告人阪口峯次は、その所有する不動産を平成二年二月を引渡時として売却譲渡したものであるが、前記の坂本、谷口、北田と共謀して、被告人阪口の所得税を免れようと企て、平成二年分の総合課税の総所得金額が一二三万六七五〇円で、分離長期譲渡所得金額が二億九七六五万六六〇〇円であった(別紙2の(一)修正損益計算書参照)のに、虚偽の領収証を作成するなどして架空の譲渡原価を計上する方法により所得の一部を秘匿して、平成三年三月一五日、前記粉河税務署において、同税務署長に対し、その分離長期譲渡所得金額が三八四六万六〇〇〇円で、これに対する所得税額が七六九万三二〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出(ただし、総合課税の総所得金額については、平成三年三月一二日、一二三万六七五〇円である旨の所得税確定申告書を別途提出)し、そのまま法定納期限を経過させた。その結果、平成二年分の正規の所得税額七二二九万七五〇〇円との差額六四六〇万四三〇〇円(別紙2の(二)税額計算書参照)を免れた。
(証拠)
(注)括弧内の漢数字は、証拠等関係カード検察官請求分の請求番号を示す。
第一の事実について
1 被告人谷澤の
(1) 公判供述
(2) 検察官調書(二一四から二一六)
2 本田雄次(二〇八)、丸山達雄(二〇九)、坂本肇(二二三、二二四)、谷口清次(二二七)、北田叔男(二二八)の検察官調書
3 査察官調査書(二〇三、二〇四)
4 脱税額計算書(一九八)
5 証明書(一九九)
第二の事実について
6 被告人阪口の
(1) 公判供述
(2) 検察官調書(二一九から二二一)
7 坂本裕(二一〇)、廣畑善弘(二一一)、岡本宏(二一二)、岡本勝代(二一三)、坂本肇(二二三、二二四)、谷口清次(二二六)、北田叔男(二二九)の検察官調書
8 査察官調査書(二〇五から二〇七)
9 脱税額計算書(二〇〇)
10 証明書(二〇一、二〇二)
(法令の適用)
1 罰条 いずれも刑法六〇条、所得税法二三八条一項、二項
2 刑種の選択 いずれも懲役刑と罰金刑を併科
3 換刑処分 それぞれ刑法一八条
4 刑の執行猶予 それぞれ懲役刑について刑法二五条一項
(量刑事情)
一 被告人谷澤の犯行は、所有不動産売却に関して、三億三〇六九万円余りの所得を得ながら、丸山達雄の勧めに従い、脱税を組織的に請け負っていた同和団体幹部の共犯者谷口らに依頼して、架空の土地取得価額や造成費用を計上する方法により、所得の一部を除外して申告し、七二六二万円余りの所得税を脱税したという事案であり、その脱税額が高額であるばかりか、ほ脱率も約九〇・三パーセントと極めて高率であって、納税義務に著しく違反する悪質な脱税行為である。
しかし他方、被告人谷澤が脱税を依頼したのは、丸山や共犯者の谷口、北田の強い勧めによるものであることが窺われること、被告人谷澤は、具体的な脱税工作には関与していないこと、既に、地方税を含めて本税及び附帯税の全額を納付していること、本件脱税工作に関して、共犯者谷口らの同和団体の方に支払った謝礼金約五四八〇万円は、現在のところ、その全額が被告人谷澤の損害の形で残っていること、これまで前科前歴はなく、本件について反省していることなど、被告人谷澤のために酌むべき事情がある。
そこで、これらの事情を総合考慮して、被告人谷澤に対し、主文の懲役刑と罰金刑に処し、懲役刑の執行を猶予することにした。
二 被告人阪口の犯行は、事業所得のほか、所有不動産売却に関して、二億九七六五万円余りの所得を得ながら、岡本宏を通じて、脱税を組織的に請け負っていた同和団体幹部の共犯者谷口らに依頼して、架空の土地取得価額や造成費等を計上する方法により、所得の一部を除外して申告し、六四六〇万円余りの所得税を脱税したという事案であり、やはり、その脱税額が高額であるばかりか、ほ脱率も約八九・四パーセントと極めて高率であって、納税義務に著しく違反する悪質な脱税行為である。
しかし他方、被告人阪口は、脱税を依頼したものの、具体的な脱税工作には関与していないこと、既に、地方税を含めて本税及び附帯税の全額を納付していること、共犯者谷口らの同和団体の方に支払った謝礼金約四五〇〇万円は、現在のところ、被告人の損害の形で残っていること、これまで前科前歴はなく、本件について反省していることなど、被告人阪口のために酌むべき事情がある。
そこで、これらの事情を総合考慮して、被告人阪口に対し、主文の懲役刑と罰金刑に処し、懲役刑の執行を猶予することにした。
(出席した検察官宮下凖二、被告人両名の弁護人池内清一郎)
(裁判長裁判官 田中正人 裁判官 竹田隆 裁判官 平島正道)
別紙1の(一)
修正損益計算書
<省略>
別紙1の(二)
税額計算書
<省略>
別紙2の(一)
修正損益計算書
<省略>
別紙2の(二)
税額計算書
<省略>